バスキュラーアクセスの診察


バスキュラーアクセスの診察 1
 レントゲンを使ったシャント造影などの画像はバスキュラーアクセスの診断に有用な情報を与えてくれますが、やはり各々の患者さんに応じた的確な診断を行うためには直接患者さんを診察することが最も情報量も多く重要な事です。

 画像診断は現在のところ未だ基本的には二次元画像になりますから、画像上血管が狭く見えてもねじれた方向から見えていただけで方向を変えて改めて見てみると全く問題が無い場合やその逆の場合もあります。
 また周囲に存在する骨などに隠れて病変がわからない場合もあります。こうした場合でも患者さんに関する普段の透析での十分な情報があれば、その情報を踏まえたうえで改めて画像を見ると、それまで見えなかった病変や問題点がわかる場合もありますが、それでも直接患者さんを診察することの重要性が低くなるものではありません。

 紹介や相談をしてくる先のスタッフと普段から十分のコミュニケーションが取れているとトラブルを生じた患者さんの情報に関して、直接患者さんにお会いしなくてもかなりそのトラブルの状態を想像することはできます。

 普段から接しているスタッフであれば、ものの考え方やとらえ方、また共有する認識などによりかなり具体的に推し量ることができるからです。それでもやはり細かいニュアンスは伝わりにくく、時に判断に重大な支障となる場合も存在します。まして、普段ほとんど接することのない相手からの情報ですと、いかに医学という共通の土台で会話していても、いわば言葉の違った国の人同士の会話のように大雑把な状態以外ほとんど大切なことが伝わりません。
 聞くと見るとでは大違いとなり、直接患者さんを診ることなしに聞いた情報のみで判断を下すことは大変な間違いを引き起こすことにもなります。紹介先のスタッフと普段からの十分なコミュニケーションをとって共通の言語をもったうえで、最後の判断は直接患者さんを診察してから下す姿勢が重要です。

PTA経皮的内シャント拡張術の適応と施行に当たって関連他施設よりもたらされた情報提供書:現在の問題点や特に詳しく診察してもらいたいポイントが、普段透析を行っている他施設からアクセスサージャンに情報提供されている。下欄はPTAを施行したアクセスサージャンからの返信コメントになっている。





バスキュラーアクセスの診察 2

 自施設、多施設を含めた多くの透析スタッフとの普段からのコミュニケーションとして大切なことの一つはバスキュラーアクセスに対する共通の認識を持つことです。理想的にはできるだけ客観的に評価できる指標をお互いが持つことができれば、互いの齟齬に伴うトラブルをかなり減らすことができるはずです。

 一つの試みとして注目されるのが、バスキュラーアクセスの状態を点数化して一定の点数を超える、もしくは割る状態になった患者さんをアクセスサージャンに紹介して直接の診察を受けるシステムを作ることです。
 目的はアクセスサージャンの診察を受ける前に突然のトラブルでバスキュラーアクセスが使用不能になる事態をできるだけ減らす、すなわち次の透析までの間に何としても使用可能にせねばならないという時間制限をできる限り撤廃して、ある程度ゆっくり時間をかけて最良の治療法を選択する余裕を作り、直接的には閉塞などによりバスキュラーアクセスが使用不能になる前に、
PTAなどの方法により軌道修正を行ってその後のバスキュラーアクセスの寿命を延ばすところにあります。

 問題は点数化するうえで、点数をつける項目ごとにどの程度の加重をつけるか?すなわちどのような状態や現象をトラブルの前兆として重要視するのか?といった点にあり、またそれらの項目の総合点が一体何点に達したら、もしくは減点法でいくのであれば何点を割ったならばアクセスサージャンに相談するといったボーダーラインにするのか?という事もあります。

 ボーダーラインに関しては各施設の能力や対応力に応じて個別に決めることもできるという考えもできますし、評価項目への加重に関しては、先進的な施設での経験を踏まえた評価票がガイドラインなどにも紹介されていますので参考にして、あとは各施設の現状に合わせて多少の修正を施すと十分に活用可能なものを作ることができます。

 私の関与する透析施設においても現在共通言語の一環として、まずはグループ内の施設において少しずつ活用の場を広げていこうとしています。未だ結果としてその効果のがわかるほどには使用しておりませんが、今後に期待して現在続行中です。

バスキュラーアクセス・チェックシート:バスキュラーアクセスの状態を点数化するうえで、どのようなポイントを重要視するか常に検討して更新している。写真は現在使用しているバージョンであるが、定期的に検討が加えられ診察項目の重要度に応じてつける加重や新たな項目を加えることにより、更に客観性を持つよう改良しながら使用する。





バスキュラーアクセスの診察 3

 超音波断層装置はバスキュラーアクセスの診断のみならず、治療にも極めて有用な機器です。無論現段階での限界もありそれを踏まえたうえでの評価ですが、それでも一昔前のものに比べると最新の超音波断層機器はその画像の鮮やかさ、組織の判別にかかわる解像度などが雲泥の差であり、血液の流れをとらえるドプラーを併用することによってバスキュラーアクセスの診断や治療に今や必須と言ってもいい存在になっています。

 実際は皮膚の下に穿刺可能な皮下血管が存在するのにむくみなどによって認識することができない場合や、「ありがたい存在」としての尺側皮静脈をわかりにくい上腕の深い部分で見つけるのにも有用です。穿刺に利用することもあります。深い位置にあって穿刺しにくいシャント血管に対して超音波で確認をして穿刺を行う先生もいらっしゃいます。
 さらに最近では経皮的シャント血管拡張術、いわゆる
PTAにおいてもレントゲンを使用するのではなく超音波画像下におこなう超音波ガイドPTAも盛んに行われるようになってきました。

通常PTAではレントゲンを使用し、造影剤とよばれるレンドゲンで血流を写す薬剤を注入して血管の狭い部分や走行を確認しながら行うものですが、この造影剤を注入することによってアレルギーを起こす患者さんが少数ながら存在します。
 また頻回でなければ大した量ではなくてもレントゲンによる被爆の問題も完全には否定できません。超音波ガイド下に行う
PTAはこうした問題を解決できる方法で施行する医師の習得といくつかの制限や限界はありますが、多くのケースでレントゲン使用のPTAに代わり得る方法です。

超音波断層装置(エコー):バスキュラーアクセスの診察に今や必須と言える機器であり、治療や日常の透析でも使用されることが多くなっている。簡便にエコーなどとよばれることもある。







バスキュラーアクセスの診察 4

 バスキュラーアクセスに対する超音波断層装置の制限や限界の一つは、素材によりある種の人工血管は超音波で内部構造を見ることができない点があげられます。
 したがってこのような人工血管内に生じた病変については診断することができません。

 しかし最大の合併症である人工血管に生じる狭窄は、多くの場合人工血管とつながれた吻合部近くのあくまでも静脈におこる現象のため、その部分を超音波でとらえるには支障とならないことが多いのです。他の問題点として超音波断層装置はプローベとよばれる超音波発生装置を皮膚にあててその断面を画像としてとらえるのですが、プローベが皮膚と接触する
5 cm×1 cm程度の部分の断面図しか得られません。

 すなわちシャントのある腕全体であったり、シャント血管をある程度の長さにわたって全長をとらえたりということは困難で、あくまでもシャント血管の一部を切り取った画像しか得ることができません。プローベの大きさである
5 cm程度の距離であれば血管の横断図のみでなく走行に沿った縦断図を得ることはできますが、それ以上の距離になると一度に画面に収めることができないので全体としてシャント血流がどのような走行をたどって腋窩の方まで戻っていくかというシャント走行の地図を手に入れることはできないのです。

 この事はシャントを使い倒すうえでは大きな情報の欠落になり、またプローベがあてられない部分の情報は得られないことから隠された問題を見つけ出す能力には劣るように思います。さらには超音波検査によって得られる画像と情報は、実際に施行した医師や技師などの個人が最も多く的確に得られるものであり、その場にいない第三者に対して同等の情報を共有することはレントゲンによる画像診断と比べてより劣ることになります。

 極端な言い方をすると超音波検査を施行する人が興味を持ち、異常と感じた部分については念入りにプローベを当てて情報収集を行いますが、仮に重要な部分であっても施行する人がそれと意識しないとプローベはあてられず、情報は全く欠落することにもなりかねません。すなわち超音波検査を施行する人の経験と能力によって結果が大きく異なることになりやすくなります。

 このような問題点もありますが、習熟して使いこなすと血流を半定量的、すなわちある程度の流量として測定することもできますし、血流の波形をとらえて狭窄などの血流障害の有無を間接的に診断することも可能な場合があります。超音波ガイド下PTAなどは比較的最近の手技ですが、機械の進歩も手伝いこれからますます発展することが期待されます。

超音波断層装置(エコー)により得られた画像:内シャントの断面図。血流が流れる方向によって色分けされて表示されている。






バスキュラーアクセスの診察 5

 患者さんのバスキュラーアクセスを直接診察するうえで最も大切なことはシャントに触れてみる、すなわち触診にあると思っています。

 不十分とはいえ視覚は画像診断で、また聴覚は録音された音で代用することもできますが、触覚ばかりは伝えることは難しく直接患者さんに触れないと得られない情報です。
 バスキュラーアクセス最大の合併症としてアクセス血管が狭くなる狭窄という現象がみられ、放置すると血管閉塞をおこしたり、末梢の手が腫れてきたりすることがしばしば見られます。

 このような狭窄の有無を診断するうえで実際にシャントに触れることは非常に有益な情報を得ることができる手段です。狭窄部そのものを触知、すなわち触って分かる場合もあります。また内シャントの場合、狭窄があるとその部分で血流が停滞していわば道路における交通渋滞をおこしている状態になりますから動脈とのつなぎ目、吻合部から狭窄がある部分までの間のシャント血管は、あたかも動脈のごとく脈を打つことになります。
 少し難しい表現になりますが狭窄の無い健常な内シャントはスリルと言って独特の地下深く水脈が流れるような滞りの無い脈波を触知しますので、少し慣れればその違いは明確です。患者さん自身でも、容易にわかります。透析にかかわるスタッフは、毎回ではなくとも月に
12回程度、穿刺前にこれから自分が穿刺を行うシャントを触知することを心がけるだけでかなりの数のシャントトラブルを見つけ出すことができるはずです。

 このことはまた、不必要な予防治療を減らすことにもなります。画像診断上では狭く見える血管や実際にある程度周囲と比べて狭くなったシャント血管において、本当にその狭窄をPTAなどによって拡張する必要があるのか?すなわち画像によってとらえられた狭窄は日々の透析を行う上で治療する必要がある、いわば意味のある狭窄なのかどうかと言うことは触診によってかなり見分けることができると考えています。

これほど簡単なことでかなりの情報が得られるのですから、やはり直接診察に勝るものはないのです。

シャント静脈にみられる狭窄:動脈との吻合部から狭窄がある部分までの間のシャント血管は、あたかも動脈のごとく脈を打つ拍動を触知する。